2015 先天性四肢障害児の子育て調査 報告書


 障害児の親の会は、親が日々悩んだり困っていること、それだけでなく日常生活のちょっとし た気がかりまで、たくさんの情報が交換される場です。親の会の活動に参加させていただき、このような光景を繰り返し目にするうち、障害児を育てる多くの家族が経験する困難や悩みを改め て整理することが、次世代の役に立つのではないかと考えました。

 そこで今回、先天性四肢障害児を育てている/いた方々に、子育ての経験と考えについてお尋ねしました。この報告書では、 先天性四肢障害児の成長を見据えた支援のための基礎的な情報となるよう、アンケート結果をまとめました。

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報告書本文


はじめに

――にぎやかに遊ぶ子どもたちの隣で、母親たちが子育ての不安や疑問を語りはじめる。子どもがもう大きくなった母親が、何度もうなずき、自らの経験を語る。若い父親が、大きくなった当事者に就職活動の経験を尋ねる――

障害児の親の会は、親が日々悩んだり困っていること、それだけでなく日常生活のちょっとした気がかりまで、たくさんの情報が交換される場です。親の会の活動に参加させていただき、このような光景を繰り返し目にするうち、障害児を育てる多くの家族が経験する困難や悩みを改めて整理することが、次世代の役に立つのではないかと考えました。そこで今回、先天性四肢障害児を育てている/いた方々に、子育ての経験と考えについてお尋ねしました。

この報告書では、先天性四肢障害児の成長を見据えた支援のための基礎的な情報となるよう、アンケート結果をまとめました。記述の多いアンケートにもかかわらず、ご協力いただいた皆様に心より御礼申し上げます。


目次(クリックすると各項目にジャンプできます)


1.調査概要

対 象 | 全国の先天性四肢障害児の父親または母親

調査方法|郵送にて調査票を配布し、専用返信封筒で返送いただいた。調査目的とデータの取り扱いについて書面で説明し、任意で協力いただける場合のみ回答を依頼した。

時 期 | 2015 年 3 月~5月

回答者 |84 名 回収率 26.6%

目 的 | 先天性四肢障害児の子育ての中で、家族が実際にどのような経験をしたかを明らかにし、先天性四肢障害児を育てる過程で必要な支援を検討する。



2.回答者の属性

■回答者について

 回答は 84 名(父親 19 名、母親 65 名)から得た。本研究の対象には遺伝性の疾患も含まれ、障害のある子と同じ障害をもつ親からの回答は 1 件であった。

 

■障害のあるお子さんについて

 調査時点の子どもの年齢は 10 代が多く、未成年の子どもの親が 6 割であった。きょうだいがいるケースは 79%であった。

 

〇本人のきょうだいについて気になることとして、きょうだい自身の障害や性格に関することが多 くあげられた。障害児のきょうだいであるために生じる課題としては、以下の少数の回答に留ま った。 「今後、きょうだいを作る予定はあるが、同じような障害が出る可能性はどれくらいあるの か(2 件)」 「(きょうだいが)両親が亡くなった後の本人の将来について気にしている」 「弟の事でいじめにあわないか心配」 「障害のある子に手がかかる為、遠慮していることがないか心配です」 「双子の片方のみ障害があることを、どう感じているかに気になる」

 

■障害の状況

 障害があるものの、障害者手帳を持たない者が 20%であった。身体障害者手帳所持者のうち、3-4 級が最も多く、全体の半数を占めた。四肢障害以外にも、複数の障害がある者が20%いた。後の設問では、発達障害に起因する困難がより深刻であることなどが記載されていた。障害の名称については、表記の似ているものをまとめて示した。例えば「末端低形成」や「骨欠損」などの表記も「欠損・形成不全など」にまとめた。障害のある部位は、人型イラストに印をつける形式で求め、おおよその位置で分類した。障害名と部位が複数に該当する場合は、重複してカウントしている。障害の名称は「欠損・形成不全など」が最も多く、次いで「絞扼輪症候群」「裂手裂足症」が多かった。また、障害の部位は手指に障害のある者が多かった。


3.身体に関すること

 「本人が現在、身体の痛みや違和感を訴えている」としたのは 13 名(15%)であった。

 障害と関連する困難として、皮膚のかゆみやムレ、骨・関節の痛み、足の痛みなどが記載された。

 具体的には、次のような記載があった。

 

皮膚に関すること

皮膚の乾燥、かゆみ(3),(障害のある断端が)冬はしもやけになり、痛痒いようです。,暑くなると義足内がムレて、かゆくなる。

皮膚のハリ、皮膚の痛み,障害のため身体の洗いにくい場所に皮膚トラブルがおきやすい。

骨・関節に関すること

指や関節の拘縮、こわばり,肩こり、腰痛、首の痛み,手を使いすぎると痛いと言うことがある。

義足・足に関すること

長時間歩くと足が痛む(3),義足と足がこすれて痛みが生ずる場合がある,足裏の痛み,近くの診療所で月2回程度マッサージ、けん引を受けている。

土ふまずの上わきの骨がでっぱり、靴が合わないと痛む。

(カッコ内の数字は複数の回答があったもの)


4.心理社会面に関すること

 本章ではまず、子育ての過程で心理社会的な困難を経験した時期や内容について概要を示す。

 子どもの年齢に応じて直面しやすい課題については、次章で発達段階別に結果を示す。


■いつ、どんな“困ったこと”があるのでしょうか?

 「これまでの子育てを振り返って、本人の障害に関することで、あなたや本人や家族が困ったこと、対応・工夫が必要であったことを教えてください」として、複数の事例を挙げてもらった。さらに、事例ごとにいつ、どんなことに困って、どのように対応したか、どんなサポートがあったかを尋ねた。この設問には71名から有効回答を得て、のべ223件の「困ったこと」エピソードが記載された。

 

 

 

 困難が生じていた年齢は、小学校入学の前後をピークとして、

 0歳と中学入学の時期に多かった。

 本調査対象児は未成年が多かったが、青年期以降の困難も記載されていた。

 

 困難の内容は、日常生活、集団生活、障害への対応、家庭、社会生活に分類された。

 特に、集団生活(主に学校・園生活)に関する困難が多く挙げられた。

 困難の具体的な内容は、次章で発達段階別に示す。

 

 

Table 4.2 困難事例に挙げられたテーマ

 

テーマ

具体例

日常生活に関すること

日常生活動作、設備(ハード)

集団生活に関すること

学校選択・入学、学校・教師の対応、クラスメイトへの説明・注目される、いじめ・いやがらせ・からかい、道具、スポーツ

障害への対応に関すること

入院・通院の負担、義手義足、専門家の対応、発達の遅れ、見通しのなさ、痛み・二次障害、社会制度

家庭に関すること

親子関係、きょうだい、家族関係、子の訴えがない

社会生活に関すること

対人関係、当事者同士の関係、就労、自動車免許、差別

 

■“困ったこと”に対するサポートの状況は? 

 課題として挙げられた223件のエピソードうち122件(54.7%)に、家族以外からのサポートについて記載があった。また、親自身がサポートを行ったとの記載は28件(12.6%)、積極的な対処をしなかったことが明記されていたのは27件(12.1%)であった。
 サポート源としては、学校等での集団生活に関する課題が多かったこともあり、学校・保育園幼稚園の専門家がもっとも多く挙げられた。次いで障害当事者や家族を含むピア、医療福祉行政専門家などが挙げられた。民間団体や企業などが有する専門的技能が、専門家と同様にサポート源となりうることも示された。
 家族が受けたサポートの内容を分類したところ、道具的サポートが最も多かった。なかでも入園入学の時期やいじめが起きた場合に、担任や校園長がクラスメイトや保護者に対して障害理解をはかる介入をおこなったとの記載が多かった。今回は具体的なエピソードを求めたため、情緒的サポートや評価的サポートについては記載が少なかったと考えられる。情緒的サポートは、サポート源に特徴があり医療関係者やピアから提供されていた。

 

Table 4.3 家族に対するソーシャルサポートの状況

項目

件数(重複あり)

家族をサポートした人や機関

教育関係専門家(学校園)

100

(サポート源)

ピア(自助団体・障害児の親)

25

 

専門家・専門機関(医療・福祉・行政)

19

 

民間団体・企業など

10

 

知人・友人

7

 

親族

2

 

その他(同僚、ボランティア)

4

サポートの種類

道具的サポート(ケア提供、問題への介入、物資提供)

96

 

    [うち他者に対する説明や介入]

[39]

 

情報サポート(問題解決の助言、情報提供)

30

 

情緒的サポート(共感,安心などによる気持ちの支え)

12

 

評価的サポート(自己評価に関連するフィードバック)

4

 

 サポートは約に立ちましたか、という質問に対して:役に立った…76%、どちらともいえない…17%、役に立たなかった…7%

 「困ったこと」は最終的にどうなりましたか、という質問に対して:良い方向に変化した…81%、変わらなかった…14%、悪い方向に変化した…5%

 


5.発達段階別の心理社会的課題とその特徴

5-1.乳児期の子育て

 

■子どもに障害があるとわかったとき
 
子どもに障害があると分かったときに考えたことや行動したことを尋ねた。特徴として、「強い子に」「がんばれる子に」「大切に」「前向きに」育てたいなど、障害を知って改めて子育てについて決意する記載があった。また行動面では、多くの親はまず情報収集をしていた。本調査の対象は子どもの年齢が比較的高いため、親の会や書籍が情報源となっていたが、現在ではWebでの情報収集が一般的と考えられる。

 

Table 5.1.1 お子さんに障害があると分かったとき、どのように考えたり、行動しましたか?

考えたこと・気持ち

代表的な例(カッコ内は件数)

子育てについて決意をした

ちゃんと育てていかなければと思った(4)

この子と共にしっかり生きようと思った(2)

子どもと対面して前向きな印象を持った

かわいいと思った(3)

この子は手がないだけの、かわいいわが子と思った(2)

安心した

命に係わる障害ではなくほっとした(4)

現実から逃げ出したい気持ちになった

一緒に死にたいと思った・死ぬことを考えた(5)

私の手を移植してでも手を作りたいとの一心だった

衝撃を受けたり混乱した

ショック・衝撃だった(7)、どうしてよいか分からなかった(3)

自分を責めたり悲観した

健常に産んであげられなかったことを申し訳なく思った(5)

自分を責めた(3)

疑問や質問が浮かんだ

原因を知りたいと思った(5) どうして自分だけと思った(2)

今後に不安を感じた

子どもの将来に不安を感じた(6)

障害のために将来できないことばかり考えた(6)

冷静に受け止めた

自分の子どもにも障害がでてしまったか、と思った程度(2)

冷静に、現実であることの確認に努めた

その他

 

家族の言葉や態度に救われた(2)

妻に障害のことを伝えられないのがつらかった(2)

行動

代表的な例(カッコ内は件数)

身体症状

泣いた(6)、眠れなかった(4)

専門医療機関を受診した

大学病院を受診した、保健師さんと病院めぐりをした

相談や情報収集をした

親の会に連絡した(17)、図書館や書店で調べた(4)

いまできることを考え、行動した

何に対して手助けが必要となるのか想像して見当をつけた(2)

ふつうの子と同じように生活するためにできることを考えた(2)

 

 

 

■親族や近所に、障害についてどう説明したらよいのでしょう?
 周囲への説明については「特に説明をしていない(件数:13)」「しばらく隠していた(5)」「自発的に説明をした(8)」「聞かれたときだけ説明した(6)」「一部の人のみに説明した(3)」と家族の方針によって対応が分かれた。また、「家族や親族、医師などが説明してくれた(7)」といった記載もあった。
 説明する相手や時間経過によって、説明の方法や内容が異なるとの記載もあった。「親族には積極的に説明したが、近所は聞かれたときに簡単に説明した(5)」「親族に説明したが分かってもらえず、近所には隠した」「徐々に説明できるようになった」「隠すのをやめた」など。
 説明の内容については、Table5.1.2にまとめた。説明すべき情報が少ないためか、障害に関する説明は障害の発生機序や原因に限定された。加えて、生活の様子や、本人と家族への対応に関する要望などを併せて伝えたケースも見られた。

 

Table 5.1.2 あなたは親族や近所の人へ、障害についてどのように説明してきましたか?

内容

代表的な例(カッコ内は件数)

説明の方法について

 

ありのままを伝えた(10)、障害を見せて説明した(4)

医師の説明をそのまま伝えた(3)

障害の原因や発生について

生まれつき/先天性です(17)、障害の原因はわからない(14)

胎内で育たなかった/うまく形成しなかった/成長が悪くなった(5)

要望を一緒に伝えた

普通の子と同じように接してほしい(3

何かあったら助けてほしい(2)、親や本人を責めないでほしい(2)

日常生活について伝えた

何でもできる/支障はない(3)

普通に子育てしている

 

 

 

2009

 

先天性四肢障害の告知に関する実態・意識調査報告書

 

 

出生時の障害の告知については、2009 先天性四肢障害の告知に関する実態・意識調査 報告書」をご覧ください。

                   ↑クリックするとダウンロードページに移動します

 

 

この報告書では、532名の父母の経験をもとに、障害告知の状況、告知後の気持ち、サポート、障害告知に対する要望などを調査し、集計しました。

 

 

 


 

5-2.幼児期の子育て


■本人はいつ、どのように自分の「違い」に気づくのでしょうか?
 先天性四肢障害のある子どもが自身の「違い」に気づく年齢は、親の報告によると2~3歳が多かった。報告の多かったエピソードは「理由を尋ねる」「治るのか尋ねる」「泣いたり悲しむ」などであった。また、年齢によって「違い」の表現方法が異なり、幼児期には高年齢ほど違いをネガティブに表現したエピソードが増えていた。友達に指摘されるなどの出来事がきっかけになることもあるが、子どもの認知発達に応じて段階的に自身の「違い」を理解していくと考えられる。

 

Figure 5.2.1 本人が自分の「違い」に気づいた年齢は?

 

 

Table 5.2.2 違いに気づいたエピソードと年齢(数字はエピソードの件数、重複あり)

 

 

親が「違いに気づいた」と感じたエピソード(具体例)

年齢(数字は件数)

1歳

3歳

4歳

5歳

6歳

NA

合計

-

観察する(手をグーパーしていた、じっと見つめていた)

2

1

 

1

     

4

P

好意を示す(「わたしのかわいい手」「かわいいから好き」)

 

2

         

2

P

違いを特権化する(「グーちゃんだからおかたづけしなくていい」)

 

1

         

1

-

違いの理由を尋ねる(「まめちゃん、どうして?」)

 

4

3

   

1

 

8

-

ファンタジーを話す(「ママ手なおって良かったね」「大きくなったら治るんだ」「おなかの中で食べてしまった」)

 

3

2

 

1

1

 

7

-

治癒可能性を尋ねる(「小学校に行ったら治る?」)

 

2

1

 

1

1

 

5

-

他者との違いを指摘・確認する(「お母さんと違う」、手を見せてと確認にきた)

 

2

2

       

4

-

短い指をひっぱった

 

1

         

1

N

泣く、悲しむ(変だと言われて、手が生えてこないと知って、「家族と違う」)

 

4

 

1

1

   

6

-

かたちの違いを具体的に指摘する(「指がない」「小さい」)

   

3

 

1

   

4

-

仮想の指で数を数える

   

2

       

2

-

他者の発言を報告する(「僕かわいそうなの?」「いいなあって言われる」)

   

2

       

2

-

機能の制約を経験する(友だちと同じように物をつかめなかった)

   

1

 

1

   

2

N

障害を隠す(制服の袖で手をかくしていた)

   

1

       

1

N

障害のない身体を求める(「手があればいいのに」「○○くんの足がほしい」)

   

1

   

1

 

2

-

「障害」などの概念について尋ねる(「自分は障害者なのか」)

     

1

     

1

N

生活動作ができずに泣いた

     

1

1

   

2

N

嫌悪を示す(「この手、嫌だ」)

         

1

 

1

-

絵や文章で表現する(指のない自画像を描いた、障害について作文に書いた)

           

2

2

-

訴えや質問がなかった

   

3

     

5

8

 

類似したエピソードが起こりやすい年齢ごとに、カテゴリーにまとめた。

P:障害をポジティブに受け止めている行動、N: 障害をネガティブに受け止めている行動

 

障害のことを本人にどう説明したらよいのでしょうか?
 本人に対する障害の説明としては、子どもの違いに対する質問「なぜ?」に応える説明として、まず“お母さんのおなかの中で”の出来事であることや、生まれつきであることが伝えられていた。特に回答者の約8割が“お母さんのおなかの中で”の出来事として胎児期の障害であることと、障害の発生に関する内容を、子どもにも分かる表現で説明していた。
 加えて、障害の原因、発生率、疾患名などの医学的な情報や、障害に対してポジティブに受け止められるようなメッセージや対応方法を伝えるケースもあった。

 

Table 5.2.3  あなたは本人に、障害のことをどのように説明してきましたか?

説明内容

代表的な例(カッコ内は件数)

“お母さんのおなかの中で”の出来事

けがをした(33)、病気になった(3)、事故にあった(2)

(/)ができなかった(4)、指が大きくなれなかった(4)

忘れてきた、幸せと交換で神様にあげた

うまれつき

うまれた時からなかった/うまれつき(9)

原因について

原因はわからない(12)、遺伝ではない(2)

発生率について

100人に1人はいる、同じ思いをしているお友達もたくさんいる

専門的な情報

疾患名 (5)、カルテを渡した(3)、医者からの資料をもとに説明した(2)

障害に対する価値づけ

工夫すれば何でもできる(6)、私はこの手が大好きだよ(6)

生まれつきだからそれも個性だ(2

恥ずかしいことではない、神様がくれた宝物、大事にしてほしい

対応について

一緒に考えよう/がんばろう(3)、できないことは手伝ってもらおう

いずれ手術をする、将来希望すれば義手もある

ツールを用いた

絵本を見せながら(2)、写真を見せながら(2)

説明していない

特に説明していない/聞かれていない(10)

 


 

■その他、乳幼児期に困ったことや対応・工夫が必要であったこと

乳幼児期に多い困難として、すでに取り上げたトピックのほか次のような事例が記載された。

 

―専門家の対応(専門家の対応に傷ついた)
―入院・通院の負担(複数回の入院・手術のために仕事を休んだり、付き添いやきょうだいの世話など家族の負担が大きい。遠方への通院の負担が大きい。)
―見通しが立たないこと(情報が少なく、その後の見通しが立たなかったり、どう育てていいかわからず不安になることがあった)
―保険(障害のために学資保険等の民間保険に加入できなかった)
―発達の遅れ(同年齢児と比べて、知的発達または運動発達面で遅れがあった)
―家族関係(親族に受け入れられなかったり、差別的な扱いを受けた)
―クラスメイトへの説明、いじめ・いやがらせ・からかい(Table5.3.2参照)

 

■幼稚園や保育園への入園のこと
 「障害のために、幼稚園や保育園への入園の際に困った経験はありますか?」との設問に対して、21%が入園時に何らかの困難を経験したと回答した。
 園を選ぶ際には、信頼性、子どもの進路、障害への配慮などが重視されていた。入園にあたっては、多くの親が事前に園と相談をしたと思われる。その際親は、障害に対する考えや子育て方針を園に伝える場合と、園生活での心配事について園に相談する場合があり、親と園との関係性をふまえてコミュニケーションが図られていることが示唆された。なかでも「生活動作への介入の方針」は、「自分のことは自分で出来るようになってほしい」「本人が困っている時以外は手を出さないように」「できないと思われることも訓練のためやらせてほしい」のように自立を重視する内容と、「介助してもらいたい」「一人でできない事は手伝ってほしい」のように支援を求める内容があり、家庭の方針や園との関係によっていくつかの方針がありうることが示された。
 考慮したことや相談したことは「特になし」との回答も6件あった。

 

 

Table 5.2.5 園を選ぶ際に考慮したこと、園と相談したこと

入園先を選ぶ際に考慮したこと

代表的な例(カッコ内は件数)

信頼性

兄姉と同じ園(5)、知人に勧められた(2)

家族親族が通っていた(3)、知人が勤めている(3)

子どもの進路を考慮

小学校区/近所の子供たちが通っている(8)

障害への配慮

障害への理解がある(4) 、装具等への配慮がある(2)

障害児受け入れ実績がある/インクルーシブ保育を実践している(2)、健常児と同じように扱ってもらえる(2)

選択の条件

入園を断られた(5)、いくつかの園を比較した(4)

園と相談したこと

代表的な例(カッコ内は件数)

子どもの状態を事前に伝えた

生活に支障はない(3)、苦手なことと出来ること(2)

親の障害に対する考えや子育て方針を伝えた

特別扱いはしないでほしい/普通に接してほしい(8)

生活動作への介入の方針(6)

園生活での親の心配事について相談した

子どもたちにどう説明していくか(2)

他の園児や保護者に障害を説明する場を設けた(5)

 



5-3.児童期の子育て


■学校生活ではどんな課題があるのでしょうか?
 7つの項目について、障害があるために学校生活で困った経験があるかどうかを尋ねた。最も多かったのは「学校で使用する道具」であった。「スポーツに関すること」、「いじめやいやがらせ」は比較的多くの家族が経験していた。

 

Figure 5.3.1障害があるために学校生活で困った経験がありますか?

 


 “困ったこと”として記載されたエピソードのうち、集団生活に関するものをTable5.3.2にまとめた。エピソードが記述された件数はFigure5.3.1の結果と類似しており、この結果では各項目の具体的な内容と経験しやすい時期が明らかになった。

 

Table 5.3.2 集団生活での困難エピソードの分類結果(カッコ内の数値はエピソードの件数)

 

困ったこと

主な時期

困難の内容

学校で使用する道具

小1~4

リコーダー(29)、ピアノ、その他楽器、制服・洋服、靴、調理実験器具

スポーツに関すること

就学前~

小1

縄跳び(7)、鉄棒・うんてい(6)、運動会、自転車、球技、体操競技、成績への影響

いじめ・いやがらせ

小1・4

上級生や級友のからかい、差別的発言、障害を取り上げたいじめ、接触を嫌がる

クラスメイトへの説明

就学前~

小1

原因を聞かれる、障害を何度も指摘される、囲まれたり注目される、本人が説明できない、クラス替えや転校が負担となる

学校や教師の対応

小1・2

介助や施設設備を理由とした転校を勧める、暗に介助を行わない、担任の差別的発言、生徒の障害理解や差別への対応をしない

学校の選択や入学

入学前後

入園拒否、学童の入所拒否、特別支援学級を勧められる、入学拒否(高校)

メンタル

入学以降

身体症状(場面緘黙など)、不登校、障害を隠す、他者の視線を過度に気にする、障害への嫌悪感を示す・内向的になる

痛み・二次障害

小3~

高校

活動・学校行事への参加が難しくなる、日中のケアが必要になる

きょうだい

不定

本人への視線やからかいに戸惑う

 

 

 

■その他児童期に困ったことや対応・工夫が必要であったこと


以上のトピックのほか、児童期の困難として、次のような事例が記載された。

 

―学校の設備(階段やトイレなどに課題があった)
―家族関係(親族からの差別的発言があった)
―日常動作(学校でトイレ等の介助が必要であった)
―子どもからの訴えがない(高学年になると何かあっても子どもが言わなくなった)



5-4.思春期・青年期以降の子育て


■本人は自分の障害を気にしていましたか?
これまでに本人が障害について気にしていたと思われる時期と、そう思う理由を尋ねたところ、65件の回答があった。このうち15件は、気にしていた様子や子どもからの訴えがなかったと回答した。障害を気にする時期は幼児期から成人後までさまざまであったが、高年齢ほど障害を気にすることによって深刻な影響が生じていたと考えられた。

 

Table 5.4.1障害について気にしていたと思う理由と主な時期(数値はエピソード件数)

 

気にしていたと思う理由

主な時期

回答例

障害に関する本人の発言から(8)

幼児~小学生

クラス替え・転校等で環境が変わるとき

「この身体が嫌い」「手があればいいなぁ」と話した

クラス替えの度に、何と言おう、周りにどう思われるか、先生が説明するかをすごく気にしています。

他者の発言を受けて(12)

幼児~小学生

本人から「からかわれた」といった話を聞いたから

学校に行きたくないと泣いて訴えた事があった。

障害を隠していた(15)

幼児~中学生

多くは一時的だが成人まで続くことも

ポケットや机の中に手を隠していた。

時期や場所に関わらず長袖や靴下を着ていた。

外では手をグーにしていた。

他者の視線を気にしていた(4)

小学生

見た目を気にするようになって、自分がどう見られているか気にした。温泉などで気にしていた。

不自由さやできないことがあった(5)

小学~中学生

体育祭など全員競技で肩身の狭い思いをした。

同じようにできないことがある。

義手を使いたがった(3)

中学生

義手を作ってほしいと頼まれた。

消極的になった(4)

中学生~青年期

内向的になった。友達と遊ばなくなった。部活をやめた。不登校になった。

精神的に不安定になった(5)

①幼児~小学生

②中学~高校生

①笑顔が消えた。よく泣いたり不安定になった。

②荒れていた。親を責めた。自己否定するように。

その他

①小学生

 

②就職時期

①障害のある腕に落書きをしていた。

反発から障害者手帳を使わないようにしていた。

②「自分は障害が重いんだと始めて感じた」と話した

気にする様子や障害に関する訴えがなかった(15)

気にしていたと思える様子はなかった。そのように振舞っていただけかもしれないが…。

 

 

 

■本人の自立について、どんな不安がありますか?
本人の自立について、障害を理由とする不安について尋ねた。結婚について不安を感じている方が70%、就職活動や就労について不安を感じている方が57%で、自立生活や子育てよりも多かった。親は、生活のための「活動」よりも社会への「参加」に不安を感じていると考えられた。

 

Figure 5.4.2障害があるために、次のことについて不安がありますか/ありましたか?

 

■その他、思春期・青年期以降に困ったことや対応・工夫が必要であったこと

思春期・青年期以降の困難として、次のような事例が記載された。

 

―痛み・二次障害(側わんなど)
―道具・自助具等(制服、実験器具、調理器具など)
―社会制度(自動車免許の情報が得られなかった。特別対応と言われ傷ついた。)
―就労(就職活動で悩んだ。就職先で障害をどう説明するか悩んだ。)
―親子関係(手術や装具の選択意見が親と本人で会わなかった。実家に帰らなくなった。)
―当事者関係(同じ障害の人とつながりたいと言った。当事者同士でうまくいかなかった)
―不登校・ひきこもり
―メンタル(障害があるため他者に気を使いすぎる。劣等感を抱く。障害を隠す。)



6.自身の子育てを振り返って

■つらい時に、何が支えとなりましたか?
 最後に、親にとっての子育て全般について尋ねた。つらい時の支えになったものとして、子ども自身が最も多く挙げられた。次いで親の会、配偶者や両親、きょうだいなどの家族が挙げられた。一方、専門家は少数にとどまった。
どのようなことが支えになったかについては、次のような内容が記入されていた。

 

・障害のある子ども本人の笑顔や成長、努力している姿。
・ 親の会のメンバーの存在、交流、やりとり。
・配偶者が前向きな考え方や姿勢であったこと、告知後に「自分たちの子供だから大丈夫だ」と言ってくれた。
・自分や配偶者の両親がいつも助けてくれた、サポートしてくれた。
・友人・知人が話を聞いてくれ理解してくれた。

 

 また他者ではなくて自分自身の気持ちを挙げた回答もあり、「この子と共に成長しよう」、「どんな障害があってものびのびと生きていける社会をつくりたい」、「この子が大人になるまで支えねばという使命感」などが記載されていた。
その他には、「あまりつらいと感じたことがない」、「配偶者ではない」といった記載があった。

Table 6.1つらい時に支えになったもの

(カッコ内の数値はコード数)

つらい時に支えになったもの

子ども自身(34

親の会(25

配偶者(21

自分や配偶者の両親(16

友人・知人(11

自分のきょうだい(8

(親の会以外の)障害のある人・家族(7

家族(7

自分自身の思い、考え(5

本人のきょうだい(4

近所の人、地域の人(3

学校・園の先生(3

親仲間・ママ友(3

親族(2

書籍(2

スピリチュアル(2

自分の生徒たち(1

職場の同僚(1

保健師(1

その他(7

 


 

■お子さんに障害があるために、心がけていることはありますか?
障害について心がけていることとしては、子育ての方針に関することが多く挙げられた。子育て方針は、権威的であったり親和的であったり、あるいは本人をとりまく環境の整備に注力したりと、家族によってさまざまであった。次いで、親自身の心構えに関する内容が挙げられた。

 

Table 6.2 障害があるために心がけていること

 

 

心がけている/いたこと

回答例(数値は件数)

子育て方針:

ビジョン

本人が障害に囚われず自信を持てるよう心がけた

障害を隠さないようにした(3)

障害を言い訳にしないようにした

思いやりのある子、素直な子に育つよう心がけた

素直に人と接すること

人にも親切に接すること

子育て方針:

権威型

本人が自立できるよう育てる/厳しく育てる

甘やかさないこと

自分のことはなるべく自分でさせるようにした

子育て方針:

親和型

傾聴と共感/話せる関係づくり

親子で何でも話せる関係でいられるようにした

本人の話を聞き、家族で相談して対応してきた

困難がないか気にかける

身体的な苦痛については常に気に掛ける

困っていることがないかよく尋ねるようにした

困難に一緒に対処する

困っているときは少しだけ手伝うようにした

出来ないことは、どうすればいいか一緒に考える

寛容な態度で接した

厳しすぎないように、おおらかに育ててきた

子育て方針:

ふつう重視型

障害にこだわらない普通の子育てを心がけた

なんでもチャレンジさせ普通の子となるべく同じように育てる(7)、 特別視しない(4)

子育て方針:

本人中心型

本人の考えやできることを尊重する

本人には本人なりの考えや工夫があると考える

本人の意見を尊重する

子育て方針:

環境整備

経験を重視して可能性を広げる

旅行して世界の広さや成功した障害者のことを教えた

習い事をさせた

モノの工夫

道具の使いやすさの工夫

学校との関係づくり

学校の先生への事前相談、先生や保護者との積極的交流

コミュニティへの積極的参加

地域への参加、父母の会への参加

トラブルや困難に備える

環境変化時に気を付ける、トラブルを避ける用意をする

親自身の

心構え

親自身が命を尊重すること

産まれてきてくれてありがとうと思う

障害があっても一人の人間であると考える

親が障害をネガティブに捉えない

親自身が障害を隠したり子どもに隠させたりしない(5)

悲観しないようにすること、堂々とすること

明るく前向きでいること

下を向かないように、明るくいる

親が弱者への思いやりを持つこと

同じ障害を持つ親の気持ちがわかり、何か役に立てればと思う

困難から目を背けないこと

親自身が物事を簡単に投げ出さない姿勢を見せた

社会的な邪悪さから目を背けない

他者の助けを借りること

本当に困ったときは助けを借りる

なし

心がけたことは特にない(13)

 

 

■育児を通して自分が成長したと思うところは?
 障害の有無に関わらず親が育児を通して感じた自身の成長感については、社会とのかかわりの変化、自身の内面的変化、子育てに対する考え方を持ったことなどが挙げられた。一方で、子育てのつらさなど成長感とは逆の記述も一定数あった。

Table 6.3育児を通して成長したと思うところ

 

成長したと思うところ

回答例(数値は件数)

 

 社

 会

 へ

 の

 関

 心

 ・

 他

 者

 関

 係

 の

 変

 化

 

福祉に関わる社会的役割をもつようになった

障害児者と関わる仕事に就いた(5)、学校や地域の役員や委員になった、新たな世界にふれ合うことができいろいろな経験ができた

福祉への関心が高まった

障害()に対する関心が大きくなった(3)、『ノーマライゼーション』という言葉を知った

社会に対する見方・視点が変わった

多様性への知見や理解が深まった(2)、世の中にはまだ偏見や差別があると知った、人間は協力しあって生きていくものだと思うようになった

障害者や障害者家族に対する認識が変わった

障害者に思いやりを持ち気遣いができるようになった(2)、障害者やその家族に対する理解が深まった(2)、障害や病気におそれや違和感を感じることがなくなった

他者への感謝や思いやりをもてた

両親や周りの人に感謝できるようになった(4)、身近な人・ものを大事にするようになった(2)

精神的な成長

精神的に成長した

我慢強くなった・待つことを覚えた(5)、想定外のことに対応する力・決断力がついた(4)、自信がついた(3)、子どものありのままを受け入れるようになった(3) 、強くなった(3) 、前向きに生きられるようになった、時には甘えることができるようになった

自分の弱みに気付いた

自分の中の優性思想(みにくさ)に気がついた、子どもに障害がなかったら自分はもっと高慢であったと思う

子育てや人生への考えの変化

子育ての哲学が変わった(競争ではなく個性を大切に)

思い通りにならないことに対してできることをやろうと発想するようになった、子どもの本来持つ個性や可能性を大事にすべきだと思うようになった、過度の期待はせず子育てできた

子育ての哲学を見つけた

育児は自分の想定外のことを受け入れて対応することの繰り返し、育児で成長できる内容は健常者も障害者も同じ

子どもから学ぶことが多い

子どものがんばりが自分のがんばりにつながる(2)、本人からはいまだに障害について教えられることが多い、子どもは強いんだと気付いた

自分なりの楽しみや生き方を見つけた

偏見や差別のなかでいかに楽しく育児をするか考えるようになった、世間体を気にせず、自分なりに家族なりに生きてこれた

成長感以外の回答

障害受容や親子関係に葛藤を経験した

他者の視線と自分の価値観との戦いだった(4)、 親が亡くなっても困らないように自立させたいという焦りと極度の心配で心身にストレスがたまり常に辛い

自分自身の育児に後悔している

そもそも自分は障害の有無に関わらず子育てに向いていなかったと感じる。育児に対して自信を無くして落ち込んでいる

成長していない

成長していない

 


 

■お子さんに障害があることに「意味」があると感じていますか?
 障害児の親は、自らの子育てを通して障害の「意味づけ」をするとされている。一方、障害児の子育ての過程で、周囲が何らかの「意味」を伝えることがあるが、こうした「意味づけ」は障害を受け止める助けにも反感を買うことにもつながりうる。前頁の設問では多くの親が自身の自己成長感を記載したが、障害の「意味」についてはどのように感じているのだろうか。
 回答内容を大まかに分類すると、「意味がある」27%と「意味はない」24%との考えが同程度であった。さらには「意味はないと思っていたが、意味があると思うようになった」「意味があると思っていたが、今は意味はないと思っている」との回答が見られた(Table 6.5)。「その他の意見」としては、意味はわからないが親として成長したという意見や、障害の有無に関わらず生きることに意味があるといった意見、意味を考えることへの疑問などが記述された。
次に、どのようなことに「意味」を感じているか、そう思うきっかけなどについて尋ねた回答をまとめた(Table 6.6)。ただし、「意味がある」とする回答に「障害はない方がいいと思うが」といった前置きが書かれたり、「意味がない」とする回答に「ハンデがある他の人へは人一倍やさしく、真剣に考えられる子が育った」「障がいを持つ人の多さを知り、社会を変えなければと考えるきっかけになった」のように意味づけとも捉えられる記述がなされたりしている。

 

Table 6.5 子育ての過程で認識が変化したと思われる回答

 

〇意味がある→ない

 子どもが生まれた当初~幼児期は、自分自身が障害のある子を持ったことに意味がある、と思っていたこともある。「私だからこの子をしっかり育てられるとして、天から選ばれたのだ」あるいは「子ども自身が、生まれる前に、私を親として選んだのだ」と考えることが、自分の気持ちをふるい立たせる意味を持ち、不安や心配を払拭してきた。(←相当気張っていた?) でも、子どもが明るくたくましく育ってくれるにつれ、何も肩に力を入れて気張って構えて子育てすることはないのだと気づかされた。障害があるから、ないから、に関係なく、いのちの重さは皆、平等。支え合うべきところは支え合い、自然体で、受容できれば良いと思う。

〇意味がない→ある

 同じ様な質問を何度か聞かれた事があり、あらためて考えてみました。よく「あなたでなければ、育てられないからあなたの所に生れてきたのよ」みたいな事を言われますが、以前は否定的でした。あなた達にはわからないくせに、と。でも、そうなのかなと思う様にもなってきました。本人に障害がなければ、私は自分には生きている意味がないと何度思っても、「あの子は、必死に生きている」という思いが、本人が生まれてから、そうだ、何度もあったなと思いました。私にとっての「意味」とは、本人が必死に生きていてくれている事に「お母さんも生きて」と言っている様に思えてならないと感じた時でした。

 

Table 6.6 障害があることに「意味」がある/ないと思う理由

 

 

意味があると思う理由

代表的な例

子どもが障害を持って生まれてきたことにメッセージ性を感じているから

この人たちならこの子を育てられると、自分たちが神や天によって選ばれたと思う。/子どもは自分を選んで生まれてきたと思う。/この子は、障がいに対する偏見を無くすために生まれてきたと感じた。/自分が子どもを産む前に欠けていた部分を補うために、障害があるのではないかと思うようになった

子育てを通じて考えるようになったことがあったから

本人が生まれてきてよかったと思えればよいと思うようになった。/子どもが明るく逞しく育ってくるにつれ、気張って子育てをする必要がないと気付いた。/親も、本人にとってもユニークな人生となった。/自分より子どもの方が辛い中頑張って生きていると思うと、人生を前向きに捉えられた。

親の性格や人生観等、内面の変化があったから

遺伝を受けたそれぞれが人生を楽しむことによって、遺伝が親からの人生応援のメッセージであるととらえるようになった。/親の人生そのものの考え方を変えてくれた。/いつも謙虚にいられる。/ポジティブ思考になった。/違う視点から人生や自身を考察できるようになった

親自身が多様性への理解ができたから

健常者基準の考え方ではなくなった。/障がいがあってもなくても人間なのだと思うことができた。/障害を起こらないものと考えることはふつうではないと思った。/いろいろあっていいんだな、と思った。/当たり前は当たり前ではない。

親自身の障害に対する

認識の変化があったから

障害を持つ人のことを考えるようになった。/障害は不自由ではあるが不幸ではないと思った。/子がいなければ、このような障害があることも知らずにいた。/他人の障がいや子育てに優しくなれた。

親自身が社会について考えるようになったから

障がいを持つ人の多さを知り、社会を変えなければと考えるきっかけになった。/どんな障害があろうとも、一人一人が生き生かされる世の中が理想的。/すぐれた人間だけの社会はいびつである。/自分の体験を他人や社会の役に立てたい。

家族の人間関係の広がりや変化があったから

いろいろな障害を持つ子ども、人と知り合うことができた。/子どもが自分をいろいろな人と繋げてくれ、仲間に出会った。/親の会を知った。/家族が自然に思いやりを持てるようになった。

子どもは自分へのギフトだと考えるから

子どもは、神様が授けてくれた命(プレゼント)だと感じる。/自分の子が自分の子で本当によかったと思っている。/子どもが障がいを持って生まれたことが自分や家族にとって「宝物」である。

意味はないと思う理由

代表的な例(カッコ内は件数)

子どもに対する負い目健常であれば良かったという想いがあるから

障害があってよかったとは思えない。/障害はない方がいいと思う。/みんなと野球をする姿を見たかった。/知らずにこの世に送り出してしまったと申し訳なく思う。/障がいを持つ人は不便だけど不幸ではないというけれど、やっぱり不幸だと思う。/意味がないと考えなければ、平然としていられない。

メッセージ性への否定的意見

『業病』や『因果応報』といった言葉を自分の子に当てはめるのは不遜である。/周りから、励ましの意味で「優しい両親のもとにしか生まれない」と言われるがそうは思えない。

特別なことではないから

社会にはたくさんの課題があるから、特別なことでもないと思うようになった。/障がいが有無に関係なく、命の重さは皆平等であると思うようになった。/個性。/たまたま。/単なる事故。/仕方のない事。

 

 

 

■障害を知ったときの気持ちと現在の気持ちの変化
 対象者が子どもの障害を知った当時と現在の気持ちの変化を知るため、「子育てに対するポジティブな気持ち」と「子育てに対するネガティブな気持ち」について、右のような図のあてはまる位置に印をつけていただいた。
 集計には「全くない」を起点(0)として印までの距離を計測した数値を用いた(右図では3.2)。数値が大きいほど「ポジティブな気持ち」または「ネガティブな気持ち」が強いことを示している。
 対象者の回答の平均値を見ると、ポジティブな気持ちは1.0ポイント増加し、ネガティブな気持ちは2.2ポイント減少していた。全体としては、障害を知った当時に比べて調査時点での子育てに対する気持ちは好転していたといえる。

 次に、回答者ごとに、「現在」の数値から「障害を知った当時」の数値を引いた差を算出した(-5≦n≦+5)。これによって、個人の子育てに対する気持ちの変化を知ることができる。「ポジティブな気持ち」が増加した回答者の割合は54%、変化なし16%、減少した29%であった。また、「ネガティブな気持ち」が増加した回答者の割合は14%、変化なし10%、減少した76%であった。気持ちが好転した方が多かった一方で、障害を知ったときと比べてポジティブな気持ちが弱まったり、ネガティブな気持ちが強まった方もいた。

 

 

 

 

 

 

Table 6.7 子育てに対する気持ちの変化(平均値)

 

障害を知った当時

 

現在

ポジティブな気持ち

2.2

3.2

ネガティブな気持ち

3.6

1.4

 

 



7.調査から明らかになったこと


◆小中学校の入学時期をピークに乳児期~青年期以降まで各時期に特有の障害がある。

◆集団生活に関する困難が多く、障害への対応や家庭、日常生活、社会生活上の困難が挙げられた。

 

 

 

困難や工夫

 

入園入学に際する困難や集団生活でのいじめ、からかいへの対応事例が多いものの、ノウハウが共有されていない。

青年期以降の心理社会的困難、家族関係の困難は少数だが深刻。

 

 

◆困難事例のうち、家族以外からサポートを得られたのは約半数。

◆サポートしたのは教育関係の専門家や、自助団体や障害児の親が多かった。他者への障害の説明や人間関係トラブルへの介入が多かった。

◆受けたサポートの効果はおおむね良好。

 

 

 

 

 

サポート

 

◆情緒的サポートや評価的サポートの記載が少ない。医療・福祉・行政による効果的サポート、民間団体や企業の有する専門性の活用が課題。

◆つらい時の支えとして障害のある子ども自身と親の会が挙げられた。これらを資源として、後方サポートする方法を考えたい。

 

◆育児を通して、親は社会への関心、他者関係の変化、精神的成長、子育てや人生観の変化などを自身の成長と感じていた。

◆親の気持ちは障害を知った当時からは好転している。一方、一部悪化することもあり、現在のつらさなども記載された。

 

 

 

 

 得たもの

 

 

 

◆「良い変化」に気づき、親子の成長を評価するためのサポートを考えることが有効。

◆「障害の意味づけ」については評価が分かれる。「障害の意味」とされている現象や社会による障害の扱い方を再検討する必要がある。

 


 

研究代表者 白神 晃子

 

協力・イラスト 河原塚 成美

 

2016(平成28)年10月発行

 

この調査は、科研費「先天性四肢障害当事者の心理社会的支援のニーズに関する生涯発達研究(代表者:白神晃子)」(課題番号23730548)により実施されました。